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vol.9 奥野むつみ

白生地を生かす匠

非日常と、ときめく着物

vol.9 染色作家 奥野むつみ(木村染匠株式会社)

三つの時、初めて着せてもらった着物。幼子はときめいたそうです。
カラフルで多様な和柄に魅かれ始めると、「一心に千代紙を集めるような女の子だった」と述懐される奥野さん。現在に至る歩みは、その頃すでに定められていたのかも知れません。

お洒落に興味が向き始める年頃には、「アンティークやリサイクル着物に夢中になった」 そうです。幼くして和服に魅了され、時を経て迎えた成人式では「着物熱が再燃した」とも。
大学では日本画を専攻され、同じ頃、着物の着付けも学んでいらっしゃいます。その後ほどなくして興味は伝統工芸へ向かったと言われます。

ビフォーアフターの確認

ひと刷毛ひと刷毛丹念に

着物はドレス

そうして、今は作り手となった奥野さんの主たる制作コンセプトは、「着物はドレス」という明快で揺るぎのないものです。身に纏う女性を主役として立て、彼女を取り巻く場までを華やかに演出する「盛装」という捉え方をされています。装い、着飾ることの喜びを誰よりも知る作家の着物づくりなのです。

2020年の東京オリンピックに向けて、イマジンワンワールドの『KIMONOプロジェクト』では、セントビンセント・グレナディーン諸島の振袖を制作されています。選ばれた生地は先練五枚朱子、雲柄。光沢を放ち、染色してもっとも色映えのする素材です。

南洋の植物が、原色に近い、奔放とも言える色彩感覚で染めあげられ、カリブから潮の香りが運ばれてきたかのようです。
下絵や色の組み合わせひとつでそのバランスが大きく失われることはよくあることですが、今にもとび跳ねそうな元気な色柄が、一枚の絵羽の中にしっくりと据わりよくおさまっているのは、やはり技量に裏打ちされたセンスあってのことでしょう。目を奪う鮮やかさは、まさに「ドレス」!奥野さん面目躍如の一枚です。

カリブ海の島がイメージされた振袖
糸目の上に金彩を施した華やかな配色


ご使用いただいた生地はコチラ

先練り五枚朱子 雲霞

※ご使用いただいた生地はこちらにラメ糸が入ったものです

先練五枚朱子 雲霞

光沢を持ち、発色の良さが大きな特長。なかでも雲霞は、付下、訪問着から振袖まで用途も広く、人気の高いひと柄となっています。
品番 / 6104MK0092

春を告げる

もう一点は、お客様からのリクエストで、木蓮が主題の春帯。

「植物は観るのも描くのも好き」という、これはこれで奥野さんらしい絵画タッチの作品です。よろけ縞を隠し味のように織りあげた、無地に近い帯地が選ばれました。

木蓮のバックに桜を添えて奥行きがつけられています。そこには、木蓮の時季を知らない人にも春を告げる心づかいがあるのです。素描きと濡れ描きの取り合わせもよく、振袖とは打って変わって描線も彩色も柔和で穏やか。これが同じ作者の手になる作品なのですから、友禅世界とは奥深いものです。こんな帯が一本あると、お客様も毎年の春の訪れが待ち遠しくなるに違いありません。

現在は木村染匠様に所属される奥野さん。全国でも指折りの染め所、またとない環境の中に身を置かれ、学ばれることは多いはずです。若く、これからの飛躍が期待される染色作家なのです。

木蓮が主題の春帯
下絵は柔らかい描線で

奥野むつみ落款

染色作家

奥野 むつみ(木村染匠株式会社)

京もの認定工芸士(京友禅)
福井県越前市出身。
京都精華大学芸術学部芸術学科日本分野卒業。
2009年 ぬれ描き友禅作家 高橋峰陵工房に弟子入り。
2014年 京手描友禅作品展 京都商工会議所会頭賞受賞。
2015年 同展、一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会賞受賞。
2018年 独立、宝石とドレスをテーマとした着物ブランドBleuet.自分で自分に贈るキモノ.を立ち上げる。
2021年 木村染匠株式会社所属、京都市未来の名匠に認定される。
木村染匠からは乙女のキモノぬり絵シリーズ発表(イラスト・人気漫画家山崎零さん)

奥野むつみオフィシャルサイト