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白生地を生かす匠

意図を汲み取る

vol.8 京友禅 高橋啓 山下 聖子(ひじり)

京手描友禅の伝統工芸士、山下さんのご出身は愛知県。
子供の頃から大の着物好き、加えて、大漁旗を染める職人であったお父様への強い憧れもあって、学卒後すぐに京都へ。高橋啓様での修行が始まりました。
お話を伺うほどに、友禅の世界に身を置かれていることに宿命的なものを感じます。いるべくしてこの場にいらっしゃるのだと。

そんな山下さんが制作の中で一番気にとめておられることは、「注文主の意図」なのだそうです。
意図を読み取り、意図に沿う制作を念頭に、お客様と頻繁に連絡を取り合いながらイメージをすり合わせていくのだとか。そうした手間を厭わない、お客様本位の姿勢にも支持の集まる理由があるのでしょう。

             色挿しの染色道具

はんなり

花街をイメージした友禅がお好きなようで、得意にもされている山下さん。「はんなり」という、この世界でよく使われる言葉があります。
上品で気品を備えた華やかさ、陽気な明るさといったほどの意味合いですが、山下さんの作られる着物はまさにその形容がふさわしい作品群と言えそうです。

訪問着の制作にあたり今回選ばれた生地は、梨地という、柔らかい光沢をもった無地縮緬です。友禅の加工が素材の地紋と干渉し合うことを避けられてのことでした。
すっきりとモダンな牡丹唐草にいくつかの雅楽器が置かれています。そこへ手挿しで色が付けられていくのです。
梨地の光沢を引き出す地色のきれいなベージュ。挿される色はすべて、この地色とマッチしていなければなりません。着物として色味の統一感も要求されます。もちろん依頼主の意図も配慮のうちです。
この磨かれた配色の感性こそが友禅師の個性に他なりません。濃淡はあっても、目をむくような出しゃばった色はひと色としてありません。
全体に一歩身を引いたような控えた柔らか味があって、そのことが着物に品格を与えています。

薄い色から染め
華やかな彩色を施す

日本の文化はまた、古くから独自の「余白の美」を育んできました。
描かれない部分に意味を込めて空間の広がりなどを表現する相対的な美意識ですが、山下さんの訪問着は着姿の印象として決して激しい主張はしないはずです。無地場(余白)のあり方が絵柄をすっきり品よく見せる、そんなバランスを持った構図に映るのです。
こうして、奥ゆかしさをまとった一枚の「はんなり」が生まれます。
「自分の作った着物が世に出ていくことが一番うれしい」作ることの喜びがひしひしと伝わってくる言葉でした。

小洒落たパーティー用の訪問着
牡丹唐草に雅楽器

ご使用いただいた生地はコチラ

梨地縮緬

やわらかい光沢感があり、しなやかな風合いのある生地で、生地の表面が梨の皮のごとくわずかにざらついてみえることからこのようによばれます。
品番 / 5115MK0001

手挿し友禅 山下 聖子(ひじり)

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