受け継がれる経糸(たていと)
ものづくりの現場は、見えない苦労や、小さな技の積み重ねで成り立っています。白生地を織るということは、経糸(たていと)緯糸(よこいと)のそれぞれの生糸を用意するところから始まります。また生地を織り進めていくと、当然ながら経糸や緯糸ともに、徐々になくなり、新しい糸を準備する必要があります。
緯糸は、管(くだ)と呼ばれる木の棒のようなものに巻かれていて、杼(ひ)に収めて、杼箱から杼箱へ飛ぶことがミッションです。
一方、経糸は、千切り(ちきり)と呼ばれる大きなロールに巻かれています。
どちらも新しい糸に交換するときは古い糸に継いでいくのですが、経糸を交換することが、とても大変でして、この作業を「経継ぎ」と呼んでいます。今回、ここでは「経継ぎ」についてお話しましょう。
ロールに巻かれている長い経糸ですが、生地を織り進めていくと当然ながら、残りは短くなり、整経反数が減っていきます。
整経反数が、いよいよ無くなってきますと、新しい経糸と継いでいくことになります。
この新旧の経糸つなぎ作業を「経継ぎ」と言います。
経継ぎを専門とした職業があるほどなので、継ぐのも簡単なことではありません。
ただ糸を継げばいいわけではありません。
例えば、継いだ経糸の所が、より緩くなっていたり、割ときつめになっていたりすれば、生地を織り出したときにその張力差を調整する必要があります。
そのため、継ぐときに、張力が均一になるように継がないと後の作業がしんどくなります。
合わせて、経糸を継いだ結び目の位置は、ほぼ同じ場所になるようにしておかないと後々の作業にひびくことになります。
継いだ後の作業を考えると一本一本、気を付けながら継ぐことが大切なことになります。
丹後縮緬の小幅反物の経糸本数は、一般的に3800本前後です。その経糸を一本一本継いでいくのですが、経継ぎの専門職の方であれば、一人で約3800本前後の経糸を、4時間程度で継ぎます。
継ぐのに4時間もかかるの?と疑問に思うかもしれませんが、不慣れな素人が経糸を継いだ場合、一回の作業に2~3日はかかってしまいます。
それをプロの方は1日もかけずに継いでしまうため、たった4時間程度で継いでしまうのは、実にすごいことなのですよ!
そんなに大変なら継がずに別の方法にした方がいいのでは?いいえ、経糸は継ぐ意味があるのです。継ぐことで、効率的に次の作業が可能になります。
もし一本一本の経継ぎをしないとすると・・・
織機には綜絖や筬といった部品があり、それらに糸を通す必要があるため手間と時間がかかってしまいます。つまり、時間はかかっても、経継ぎをしておくことが、次のステップにとって、最も効率が良いため、必要な作業なのです。
経継ぎの方法も、ひとの手で継ぐ場合と、経継ぎ専用の機械を使う場合があります。
機械なら手間がかからないと思われますが、そう簡単にはいきません。
機械に糸を継いでもらうためには下準備(機械のセット)が必要になるため、時間がかかってしまいます。慣れてくれば機械の方が早いという方もいらっしゃいますので、それぞれの好みというわけです。
丹後では製織の工程が細かな分業になっていますが、不慣れながら挑戦してみました。作業中は、同じ姿勢になってしまうので適度に休憩を足らないと肩に痛みを感じます。体を壊してしまっては手遅れですから、適度な休憩を取りながら、作業を安全に行うことを意識しました。
できるだけ小さな、継ぎ目が理想です。継ぎ目の糸も短く切り落とすことが大切です。継ぎ目が大きいと、筬通しの櫛目につかえてしまいますから、次の作業の支障となります。また、継ぎ目が綺麗に並ぶよう、同じ位置でつないでおくことが理想で、少しでも経糸の無駄をなくす努力も必要です。
いろんな小さな技の組み合わせによって、織りが成り立っています。
その一つ一つの技術を、実践していきたいと思います。