vol.7 加藤 洋平
白生地を生かす匠
心を染める風彩染
vol.7 一真工房 四代目 加藤 洋平
一真工房様の創業は明治元年。150年の長きにわたり着物づくり一筋に歩んでこられました。
四代目の加藤洋平氏は、「風」を物づくりのテーマに、風彩染と名付けられた独自の技法を日々追求されています。
工房のロゴマークにも、丸い地球を風の流れが駆け巡るイメージがデザイン化されています。
人の心にもまた多様な風が吹きます。その時々の心の持ちようによって吹く風も千変万化。
そうした心像風景のイメージが個々の作品に投影されていくのでしょう。
作品を纏う女性がそこからどんな風を感じ取るのか、そして彼女の心にどんな風が吹くのか、作り手と着る人との間で無言の会話がかわされるのかも知れません。
実は四代目、漫画誌の中でも発行部数の多い週刊少年ジャンプに受賞歴をお持ちの元漫画家でもあるのです。数ある染色作家の中でも際立って特異な経歴ではないでしょうか。
その苛烈な競争社会で培われた画力はもとより、物語を紡ぐ想像力、構成力が着物づくりに反映されないわけはありません。作家独自の類例のない世界観には、そんな裏付けもあるようです。
研鑽を重ね、生み出された独自の濡れ描き技法
訪問着用に選ばれた生地は紋意匠で、風を波にたとえて図案化した「風波(かざなみ)」という大胆な地紋です。
工房のテーマに添う地紋だったのでしょうか。
風彩染は濡れ描きをベースとした独自のぼかし染です。水分を含ませた生地に刷毛を置くと染料が滲んでいき、「ぼかし」の効果が生まれます。その味わいが、無線友禅ともいわれる濡れ描きの大きな特徴になっているのです。
お話では、生地に水を含ませる際、その成分や配合に独自の拘りをお持ちのようです。作り手の思うように色が出せ、思うように染料が走る“なにか”がそこにあるのに違いないのです。
発色の見事なことに加え、ぼかし染のあし、際(きわ)の美しさはひときわ目を引きます。なによりも描線の躍動感はどうでしょう!
この道で独自性をきわめてこられた風彩染の奥義が、そのあたりにも隠されているのかも知れません。
制作にあたり特に留意されていることに、染めのリズム感をあげられました。
生地は13mを超える長さです。その両端で色の濃度に差があってはいけません。
「染めるうちにも乾いてくるので、そこも計算に入れて集中しながらリズムに乗ること」とおっしゃいます。
色数が増えるほど大変で、時には一日がかり(!)で染めるような作品もあるのだそうです。
身を削りながらの作業は想像するほかありませんが、着物に向けられた大きな愛情と熱情が十分に伝わってくるお話でした。
出来上がった訪問着をお召しになるお客様は、果たしてどんな「風」を感じることになるのでしょう。楽しみは募ります。
ご使用いただいた生地はコチラ
紋意匠縮緬 風波
緯糸を二重にして地紋の変化と深みを出した紋意匠縮緬。
風が波のように生地全体に大きく広がるダイナミックな紋様は、美しい曲線と深い陰影で表現されたモダンなデザイン。
品番 / 5101ME0003
一真工房四代目 加藤 洋平
1981年生まれ。150年以上の歴史を持つ着物工房「一真工房」四代目。 風彩染という、風を描く独特の技法で、テレビ・映画の衣装などメディアの他、LEXUSより京都の若き匠代表に選出されるなど多方面で活躍。
〒604-8861
京都市中京区壬生神明町1-197
https://www.kazewosomeru.com/