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白生地を生かす匠

物づくりの原点へ

vol.15 染色作家 加藤 弥生(アトリエ翠々)

 

東京から京都へ

北野神社のほど近く、京都ならではの入り組んだ細い路地を進んでいくと、きれいにリフォームされた一軒の町家にあたります。目印のように軒に提げられた提灯がひとつ。それが加藤さんの工房です。この辺りは上七軒と呼ばれる長い歴史のある花街です。生まれも育ちも東京で、「江戸っ子です」とおっしゃる加藤さんが、京都のなかでもひときわ京都らしい風情を持つこの地に工房を置かれたのです。

そんな加藤さんのこの道でのスタートは、東京の友禅工房への弟子入りでした。日本画を学ばれ、さらに表現の幅を広げようと模索するなかでの出会いだったそうです。十数年に及ぶ修行のなか、師事されていた先生が亡くなられたことなどもあり、縁あって京都での活動を決められました。

伝統工芸として、ご自身が磨いてこられた友禅の技術や感性。一方で、失われつつある京町家の保存という命題。大切なものを後世に伝えるべく引き継いでいく、「その感覚がシンクロしているよう」。そんなお話も聞くことが出来ました。

集中しての色挿し
ゴム糸目もご自分で

分業のない東京友禅

東京友禅の制作過程には京友禅に見られるような分業システムがありません。一般に蒸しや水洗以外のほとんどの工程をひとりの友禅師が行います。加藤さんの着物づくりはそんな環境の中で始まりました。京都にお住いの今も同じやり方で制作に励んでいらっしゃいます。

ひとつひとつの加工技術を習得しなければ、ひとりで着物を仕上げることは出来ません。「時間のかかることです」と言われはしますが、ご本人の努力はたいていのものではなかったはずです。たまたま伺った折には、帯地に糸目を置いていらっしゃいました。花に蝶の絵柄が、仕上がりの出来を約束するようなきれいな糸目で置かれています。下絵も無論ご自身の作です。5mほどの帯地なら、なんと、ふた間をかけ渡して引き染めまでされるのだそうです。可能なものなら「蒸しもします」。そう言って見せてくださったのが、驚くことにハンドメイドの蒸し器でした。

長く京友禅の量産を支えてきた分業体制ですが、職人の高齢化、後継者不足の問題は、この業界が抱える差し迫った現実です。ひとりで何役もこなされる加藤さんの制作風景は、この問題に大きな一石を投じる、ひとつのあり方のようにも見えるのです。

自作の図案で猫を
手作りの蒸し器

作家の眼差し

猫好きでもある加藤さんは、上七軒界隈の野良猫の去勢や里親さん探しにも取り組んでいらっしゃいます。同じ地域に生きるこの猫たちは加藤さんの作品のモチーフにもなっています。その仕草、表情。柔らかな色づかいでメルヘンの世界に置かれた猫たちの、なんと可愛いらしいことでしょう。
小さな命を見つめる作家の眼差しの優しさそのもののようにも映ります。

誂えで可愛い鳳凰柄のお祝い着(女の子)を
猫を季節の染帯に
愛くるしいご近所さん

ご使用の生地はコチラ

吹雪帯地

細やかな吹雪を地紋にした紋意匠の帯地。柔らかい光沢に特徴があり、発色もよい加工下向きの素材。
品番 / 7207UB0001

アトリエ翠々(すず)加藤 弥生

日本画を学ばれ、スタートは東京の友禅工房に弟子入りされた加藤さん。現在は上七軒の京町屋に工房を置いて活動されています。

京都市上京区真盛町741の5
TEL 075-354-6393