丹後 2019.10.29 織師見習いの気づき!絹は「鎧」をまとっている? なめらかで光沢のある美しい白生地。絹織物は、やわらかな生地なのですが・・・ 絹の糸は、「鎧」をまとっていることを、ご存じですか? お師匠様、織師の大先生に教えて頂きました。 あのしなやかな絹が、「鎧」をまとっている?ということを。 鉢かつぎ姫という昔話がありますね。 大事にしてくれた母が亡くなる前、鉢をかぶるように言いました。 娘は言いつけ通りに鉢をかぶったところ、頭から外れなくなりました。 大きな鉢をかぶっているせいで、人々に疎まれ、あまりにも悲しいので、入水してしまいます。 川の流れに乗って、お殿様のお屋敷に流れ着き助けられました。 一生懸命、仕事に精を出していたところ、ついに、鉢が割れて頭から外れます。 鉢を脱ぐと、その下から美しい娘が現れたというお話しです。 織機を動かす織り手の仕事を通して、ふと昔話が浮かびました。 美しい絹になる前、絹の姿は、「鎧」をまとい固くゴワゴワです。 写真の反物は一見、黄色ですが、けっして生地が黄色なのではありません。 ベレンス(※1)といわれる染料で生糸の種類を区別するために糸に着色をしているものです。 織り上がり、機からおろされた反物は、まだ白くなく、ゴワゴワしています。 精練という工程で、セリシン(※2)が溶かされることにより、生地は白くなります。 ベレンスや油汚れも同様に落ちます。 万一、製織の最中に織機の上から油が垂れてくることもあります。 もちろんその場で、油汚れを拭き取るのですが、完全に落としきることができません。 汚れジミになっている場合も考えられます。 不安を感じますが、生機※3(きばた)の状態で汚れを取り除き、その後の精練工程でセリシンとともに、汚れも落ちます。 後染の生地である白生地を製織するとき、生糸はこの鎧であらゆる衝撃から身を守っています。 製織するとき、絹糸には、大変な負荷がかかっています。 しなやかな白生地になるまでに、絹は試練を乗り越えてきています。 セリシンが製織しているときに、絹を守っている「鎧」のようなもので、実はとても大切なのです。 鉢かづき姫の鉢のように。脱ぐと、美しいのです。 ※1 ベレンス 糸の種類(太さ、右撚り、左撚り、ロット違いなど)を区別するために、生糸に着色する染料のことを言います。 ピンク、ブルー、イエロー、グリーン、パープルなどに「着色」します。 機場での種別方法で、決して糸や生地の「染色」ではありません。 織上がり後の精練工程でベレンスは、簡単に流れ落ち、反物は白く仕上がります。 例えていうなら、書類につける付箋のようなイメージでご理解下さい。 ※2 セリシン 生糸の太さは2.5デニール程度。髪の毛のおおよそ1/20といわれています。 お蚕様が吐き出した繭から製糸した生糸1本を拡大して断面を見ますと、フィブロイン(長繊維部分)がセリシン層に覆われています。 例えるなら、豚の鼻の穴のような状態に、フィブリルの集まりが2束あり、このフィブロインの繊維の束を囲むようにセリシンが付着しています。 ※3 生機 織り上げたままの状態の織物です。 (株式会社伊と幸 織工部 織師見習い 梶谷かえで 記) Post Share 丹後, 色無地