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白生地を生かす匠

絞りという名の防染

vol.17 京鹿の子絞 眞桜

広がる絞りの世界

絞り染めは、染色前に生地を糸で括ったりたたんだりして、染料が染み込みにくい部分をつくり出すことで絵柄を表現していく染色技法です。染料の染着度合の差を、そのまま見栄えのよい模様として成立させるために絞り職人の技量が問われるのは言うまでもありません。
一口に絞りと言っても、本疋田(ほんびった)、小帽子(こぼうし)、縫い締め(ぬいしめ)、杢目(もくめ)などなど、多種多様な技法が考案され、その道の職人たちによってそれぞれに奥深い進化を遂げてきました。また着物だけでなく風呂敷や手ぬぐい、暖簾といった和物から、スカーフやTシャツなどファッション性の高いアイテムにもその活躍の場が広がっています。

ロスの印象

家業である絞りの世界へ入る前に、重野さんには美大卒業後ロサンゼルスの建築事務所で学ばれた期間があります。その時、若い重野さんの目に映ったのは、澄み渡った青い空、目に鮮やかな木々の緑、わけても「ヴィヴィッドな街の色合い」だったそうです。
温暖な西海岸の気候のもと、20代の若い目がとらえた風景印象は、ジャンルを超えて広がる現在の仕事の中にも息づいているのかも知れません。

鮮やかな多色の絞り染

籠(かご)絞り染

竹で編まれた細長い籠の中に生地を押し込んでいき、その状態のまま染料に浸ける方法を籠絞り染と呼びます。今では竹籠の代わりに特注の長いネットを使っていらっしゃいます。
狭い空間にくしゃくしゃにして詰め込まれた生地には、染料を吸う部分と浸透の悪い部分が出来て、まだら状の染めムラ感を出します。その出来は偶然性に大きく左右されますが、そこにはキャリアを積んだ職人の手が入っています。勘どころを押さえた仕上りには、さすがに重野さんと思わせるトータルバランスがあるのです。
同じやり方で、一度染まったものを抜染し、そこへ違う色を挿し込んでいく多色絞りでは、まさに作家の真骨頂が見られます。ことに鹿革を絞ったものなど、およそ人の手では描けそうにもない絵柄が現れ、多色とも相まって見たこともないような驚くべきデザインが生み出されています。
同じように染めても「素材の厚みや組成によって全く違う染まり方をします」と重野さん。また「二度と同じものは出来ません」ともおっしゃいます。一期一会、作品はすべてが一点ものなのです。
そんな重野さんの“魔法の絞り”は、国内にとどまらず海外のアパレルブランドからも注目を集め、シャツやジャケット、コートなど、垣根をこえたコラボレーションも実現しているようです。

竹で作られた絞り染め用の籠
現在はネットに詰めて縛る手法

京鹿の子絞 眞桜

重野 泰正

平成23年伝統工芸士(京鹿の子絞染色部門)認定